はじめに

韓国は、生物多様性条約については1995年、名古屋議定書については2017年に締約国となりました。遺伝資源の取り扱いは許可制ではなく、基本的に届け出制です。2024年に韓国政府への微生物を対象としたABS対応を進めていましたが、対象となる遺伝資源について基本的なことを見落としており、遺伝資源を輸入できなかった失敗事例を紹介します。

1.基本的ABSプロセス

3種の微生物を韓国から受け取りたいという内容の相談が、日本の研究者から寄せられました。海外の遺伝資源を利用する場合の具体的プロセスは7段階あります。ただし、提供国、提供組織との関係や遺伝資源の種類によって手続きが不要な場合や、順番が前後することもあります。
1)信頼できる提供国相手の決定
2)提供国のABS情報の収集
3)他の国際条約、利用国(日本)の法令の遵守
4)「相互に合意する条件(MAT)」を盛り込んだ契約の締結
5)提供国政府から「情報に基づく事前の同意(PIC)」の取得
6)「材料移転契約(MTA)」の締結
7)輸送手段の確保

2.具体的な対応

1)提供国の相手

相手は論文でつながりができた韓国の大学研究者でした。

2)提供国のABS情報

遺伝学研究所ABS支援チームのHPには韓国の詳細な情報(2021年2月更新)が載っています。オンラインで次のURLに申請後に30日以内に証明書が発効されるようです。
https://www.abs.go.kr/absch-en/main.do?lang=en
念のため、「アジアABS学術フォーラム- ABSシンポジウム2023 -」(2023年10月、東京)での講演者に直接メールしたところ、次のような返事をいただきました。
・韓国の研究者から受け取る予定の微生物は、韓国当局による輸出承認の対象ではありません。つまり、それらを所持することに何の制限もありません。
・しかし、韓国の規制により、韓国の遺伝資源にアクセスする場合は、微生物を輸出する前に、韓国政府に報告しなければなりません。必要な報告を行うには、以下のウェブサイトにアクセスしてください。
https://www.abs.re.kr/eps/app?menuId=MENU003020101010000
・手続き中に問題が発生した場合、特に料金の支払いに関して問題が発生した場合は、韓国の研究者に手続きを代行してもらうとよいでしょう。
・国の規定によると、相互に合意する条件(MAT)の締結は個々の利用者の裁量に委ねられています。
・MATの代わりに、素材移転契約(MTA)を締結することもできます。
・MATまたはMTAを締結した場合、微生物へのアクセスを報告する際にはそのコピーを提出する必要があります。
教えてもらったHPには、必要書類としては次のとおり書かれていました。
ⅰ)国内遺伝資源へのアクセスに関する届出書
ⅱ)MATのコピー(締結されている場合)
ⅲ)報告者を特定するための書類(共有された行政情報では本人確認ができない場合のみ)
ⅳ)政府収入印紙(10,000ウォン、約1,065円):申請時に収入印紙のスキャンファイルを添付すること
届出書についてはダウンロードでき、①申請者情報(氏名・所属・生年月日・住所・連絡先)、②提供者情報(①と同様)、③遺伝資源及びそのアクセスと利用(名称・量・アクセス方法・アクセス目的・利用予定国・利用方法・利用期間)④MTA締結の有無を記入するようになっています。

3)日本の法令

植物防疫所HPの「生きた昆虫・微生物などの規制に関するデータベース」で検索したところ、「0件該当しました。」と表示され、植物防疫法で規制の対象となるかどうかの判定が行なわれていない種であることがわかりました。つまり、現時点では、これらの種を輸入することはできません。そこで、「輸入禁止品の輸入許可申請」を行うべく、準備を始めることにしました。

4)MAT

MATについては必須ではないと判断しました。

5)PIC

PICは不要です。

6)MTA

韓国の研究者が所属する研究機関に聞いてもらったところ、MTAは不要との回答でした。

3.カルチャーコレクションからの購入と発覚

韓国政府に届け出するにあたり、収入印紙の購入についは相手国の研究者に頼まざるを得ませんでした。このことを相手国の研究者に伝えたところ、輸入予定微生物はイギリス、ドイツ、アメリカのカルチャーコレクションから購入したので、届け出書は書けないと回答がありました。カルチャーコレクションからの購入時に締結したMTAに、第三者機関への譲渡が許される条項が載っていれば送ってもらえます。しかし、3種の微生物のMTAを韓国の研究者に確認してもらうほどの面識はないということで、韓国からの微生物輸入をあきらめざるを得ませんでした。

おわりに

ABS担当の筆者は韓国原産という先入観で手続きを進めてしまいました。遺伝資源の取扱において原産国を確認するということを、日本と韓国の研究者共に理解しておらず、カルチャーコレクションから購入した微生物も普通に譲渡が可能という認識でした。しかし最大の原因は、ABS担当が微生物の由来を詳しく日本人研究者に聞かなかったことでした。大いに反省した次第です。

関連記事

RELATED POST

この記事へのコメントはありません。

PAGE TOP
MENU
お問い合わせ

abs@terayoshi-gyosei.com