はじめに

フィリピンの大学と日本の大学間でMTA(Material Transfer Agreement)を締結する際、フィリピン側から契約書へのアポスティーユ(apostille)取得を求められました。
今回は、契約書の認証とは何か、日本での具体的な認証手順、そしてなぜMTAでアポスティーユが求められたのかを整理して紹介します。

1. 日本での私文書の認証の流れ

国立大学法人や私立大学法人が作成する契約書などは、一般に『私文書』として扱われます。私文書のうち、署名または押印のある文書を『私署証書』といいます。日本では、私文書を官公庁や会社などに提出する場合でも、通常、公証人の認証は必要ありません。しかし、一部の国では、外国で作成された私文書について、公証人による認証を求める場合があります。
さらに、海外の相手側の要求に応じて、公証人の認証を得た文書について、法務局認証、外務省認証、領事認証という複数段階の認証が必要になる場合があります。

1) 公証役場で私署証書の認証

まず、公証役場で『私署証書の認証』(Notarization)を受けます。これにより、私署証書に公証人による認証文が付され、公証人はその署名などが本人によるものであることを認証します。
なお、外国語の文書の場合でも、認証文は日本語で記載されます。しかし、認証文について外国語訳を添付し、公証人がその訳文に署名する運用が行われています。

2) 公証人の認証の他機関でのさらなる証明

公証人の認証について、別の公的機関がその真正性をさらに証明します(Legalization)。
・公印証明:公証人の所属する法務局の長から、その私文書に付けられている認証がその公証人のものであることの証明を受けます。
・公印確認:外務省が法務局長印の真正性を確認します。
・領事証明:文書の提出先の駐日大使館・(総)領事館の証明を受けます。

2. 外務省のアポスティーユによる手続き

アポスティーユとは、『外国公文書の認証を不要とする条約(ハーグ条約1961年)』に基づく認証制度であり、この文書上の公的署名や印章が真正なものであることを、日本の外務省が証明するものです。
上述のように、通常は相手国の大使館などで『領事認証』を受ける必要があります。しかし、この条約に加盟している国同士の場合、通常必要となる領事認証を省略し、アポスティーユにより、認証文書上の公的署名や公印の真正性を証明できます。

3. 公証役場のみでワンストップ対応が可能な場合

1) 提出先がハーグ条約加盟国

現時点では、東京都内、神奈川県内、静岡県内、愛知県内、大阪府内、北海道(札幌法務局管内のみ)、宮城県内および福岡県内の各公証役場では、外務省アポスティーユ付き認証文書をワンストップで取得できます。したがって、公証人の認証を受けることによって、法務局、外務省、大使館などへ個別に出向いて手続きを行う必要がありません。

2) 提出先がハーグ条約非加盟国MTA

提出先の国がハーグ条約に加盟していない場合でも、これら公証役場では、法務局長認証および外務省認証付き文書をワンストップで取得できます。したがって、公証人の認証を得た後、駐日大使館などで領事認証を受けられます。

4. 公証役場におけるフィリピンの大学とのMTA公証の実際

フィリピンと日本は共にハーグ条約に加盟しています。東京都内の公証役場で、実際にフィリピンの大学と日本の大学間のMTAを公証してもらった際の手順です。
まず、公証役場に予約をとりました。次に示す署名用文書と必要書類を準備しました。
(1) 署名用文書:英文MTA2通(相手国側と日本側用)
(2) 必要書類:署名人の役職を示す書類(大学公印を押印したもの)、大学法人の履歴事項全部証明書、大学代表印の印鑑証明書(提出された印影との照合のため)
そのうえで、署名人は顔写真付きの本人確認書類を用意し、公証役場で公証人の面前で署名しました。これにより、署名人が確かに署名したことが公証されました。
なお、証人の署名欄がある場合、証人は前もって署名してもよく、通常、証人欄について個別の公証を求められることは少ないようです。手数料は文書ごとに発生します。

5. なぜMTA締結時にアポスティーユを求められたのか

MTAには次のような重要な法的要素が含まれています。
目的と範囲
知的財産の帰属
使用制限
秘密保持
免責事項
成果の公表
試料の処分・返還 等
そのため、相手国の大学側としては「この契約書が真正な文書か」、さらに「署名が本人によるものか」を確認する必要があったと考えられます。アポスティーユは、認証文書上に付された公的署名や公印が真正なものであることを証明する役割を果たします。

おわりに

おわりに
日本の大学や研究機関では、契約書の署名に研究者の所属する部局長、研究推進部門の長、学長などが署名人となり、これを公証する習慣はありません。海外では、偽造契約、権限のない担当者による署名などを防ぐ目的で公証文化が強い国があります。あらためて、誰が契約主体となり、誰が署名権限を有するのかを整理する必要があると思いました。
なお、実際の必要書類や認証方式は、公証役場や大学法人の規程、提出先国の要求によって異なる場合があります。

【参考】

・日本公証人連合会 外国文認証
https://www.koshonin.gr.jp/notary/ow09_2
・外務省 アポスティーユ
https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/todoke/shomei/index.html

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