はじめに

台湾から海洋微生物2種を輸入したいと日本国内の機関に属する外国人研究者から相談を受けました。台湾の情報はABSクリアリングハウスでは得られず、対応に困りました。なお、依頼してきた研究者は日本語を話すことはできますが、読み書きは不得意です。今回は、台湾を提供国とし、かつ、日本語が苦手な研究者をサポートした事例を紹介します。

1.ABSの基本プロセス

海外の遺伝資源を利用する際は、通常、次の7段階のプロセスを踏みます。ただし、提供国、提供組織と利用組織との関係、また、遺伝資源の種類によっては、一部手続きが不要であったり順序が前後する場合もあります。
(1)信頼できる提供国相手の決定
(2)提供国のABS情報の収集
(3)関連する国際条約及び利用国(日本)の法令の確認
(4)『相互に合意する条件(MAT)』を盛り込んだ契約の締結
(5)提供国政府から『情報に基づく事前の同意(PIC)』の取得
(6)『材料移転契約(MTA)』の締結
(7)輸送手段の確保

2.具体的な対応

1)提供国の相手

国内研究者と論文を共著で発表するような間柄の台湾の国立大学の研究者でした。

2)提供国のABS情報

台湾の大学研究者がこれら海洋微生物を採取したのではなく、台湾で採取されたものを台湾の微生物保存機関から受領したということでした。その保存機関と所属大学とは何の契約も交わされていませんでした。
台湾独自ではABSクリアリングハウスに掲載はなく、国内連絡先やABSに関する法令は不明でした。そこで、国立遺伝学研究所 ABS支援室に問い合わせたところ、過去に台湾農業部に問い合わせた次の回答を共有していただけました。
・台湾は、生物多様性条約や名古屋議定書を含む国連関連条約などの締約国ではないものの、生物資源の研究利用については、名古屋議定書の公正かつ衡平な利益配分の原則に従って欲しい。
・具体的には、台湾の研究機関と共同研究を行い、契約書(MTAなど)でサンプルの取扱について定め、成果発表の際は採集地が台湾であることを明記するなどする。
・台湾の生物資源の採集、利用、輸出などは、様々な法令や規則により規制されており、どの法令に該当するかは生物種や利用目的、取得場所などにより異なる。
今回の遺伝資源が農業部の管理するものかは不明でしたが、特に国立大学からの受領であるため、MTAのみを締結して輸入することになりました。
当初、国内研究者にヒアリングしたところ、農林水産省からはABSについては問題ないと言われたとのことでした。疑問に思い、さらに詳細を調べた結果、研究室の海外留学生が英語を使い、輸入の可否について農林水産省 消費・安全局畜水産安全管理課水産安全室に電話で問い合わせたことがわかりました。同室では、『水産資源保護法』に定めている規制対象の水産動物ではないことを伝えたとのことでした。つまり、ABSについては未解決の状態でした。

3)日本の法令

これら海洋微生物が植物防疫の規制対象となるとは、考えられませんでした。しかし、念のため植物防疫所に問い合わせた結果、『生きた昆虫・微生物などの規制に関するデータベース』で検索するよう指示がありました。検索したところ、記載なしの生物であり、研究目的の輸入のためには、『輸入禁止品の輸入許可申請』をする必要がありました。
日本語で申請書を書くことは、日本人でさえ煩雑な作業です。研究者からのヒアリングで研究の内容や方法、流れを聞き取り、実験室を見せてもらい、申請書を作成・提出しました。
実地調査を経て、『輸入禁止品輸入許可指令書』と『輸入許可証票』を受領しました。指令書には輸入禁止品の管理中の注意事項が記載されていましたので、英訳し、国内研究者に説明しました。
台湾の研究者には、『輸入許可証票』、輸送の注意点(英語)、梱包方法の図(英語、)を送付し、試料は、台湾から送付後5日目に国内研究者の手元に届きました。すぐに、『輸入禁止品の到着報告書』を提出しました。
輸入禁止品の管理にあたり、災害などの緊急時の連絡先などを表示したラベルを管理場所(実験室)に貼る必要があります。植物防疫所から提示されたラベルを英語版に書き換えて(図2)、国内研究者に掲示してもらいました。

4)提供国の相手

台湾の大学からは、MTAは不要といわれました。提供機関が不要という場合、本来ならば、受領機関もMTAを締結する必要はないのですが、唯一の書類がMTAということになるため、今回は、ABSの観点から先方にMTA締結をお願いしました。

5)輸送

EMSを使い、植物防疫所気付で送られました。

おわりに

台湾が提供国の場合の対応ですが、周りの経験者の声を伺うと生物多様性条約に基づく手続きは不要との認識です。しかし、トラブル回避のためには細心の注意を払う必要があります。
今回の国内研究者が海外の方であったため、ABS手続きをはじめ、日本国内での政府とのやり取りや制度の説明に、これまで以上に実践的な支援が必要でした。ABS手続きの周知にも日本語以外の言語での説明資料の必要性を強く認識しました。

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