はじめに

遺伝子組み換え微生物(GMMO)をドイツの研究機関へ送りたい旨の相談を、日本の研究者から受けました。日本からの遺伝資源の輸出については、ABSの観点からは問題ありません。しかし、GMMOは航空危険物にあたり、輸送には注意が必要です。今回は受領国の研究機関と提供国日本の研究機関との間で材料移転契約を取り交わし、GMMOを航空輸送した事例を紹介します。

1.基本的ABSプロセス

海外の遺伝資源を利用する場合の具体的プロセスは7段階あります。ただし、提供国、提供組織と利用組織との関係性、また、遺伝資源の種類によって手続きが不要な場合や、順番が前後することがあります。
1)信頼できる提供国相手の決定
2)提供国のABS情報の収集
3)他の国際条約、利用国(日本)の法令の遵守
4)「相互に合意する条件(MAT)」を盛り込んだ契約の締結
5)提供国政府から「情報に基づく事前の同意(PIC)」の取得
6)「材料移転契約(MTA)」の締結
7)輸送手段の確保

2.具体的な対応

1)提供国など

今回は、提供国は日本、提供者は日本の研究機関に属する研究者でした。

2)提供国のABS情報

ABS指針*1第4章によると、日本の遺伝資源の取得の機会の提供についてPICは必要ないとされています。名古屋議定書によると、遺伝資源の取得の機会が与えられるためには、提供する締約国が、情報に基づいて事前の同意を必要とすることが定められています。ただし、提供する締約国が別段の決定を行う場合を除くとあり、日本では、この例外措置をとっていることになります。
*1遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分に関する指針(2017年、2023年改正)

3)MATとPIC

必要なしと判断されました。

4)MTA

提供国である日本の研究機関が提案したMTAの内容で契約を締結しました。

5)日本の法令

GMMOはカルタヘナ法*2の対象です。また、ドイツはカルタヘナ議定書の締約国です。締約国への遺伝子組み換え生物の輸出について、文部科学省のサイト*3には次のような記載があります。
問8-3 カルタヘナ議定書締約国に遺伝子組換え生物等を送る場合、具体的な手続きはどうすれば良いのでしょうか。
答8-3 締約国向けの輸出では法第27条で定める「輸出の通告」および法第28条で定める「輸出の際の表示」が必要です。これらについては、施行規則*4第36条又は第38条に定めた除外規定に該当する場合は、対応が不要です。その他に、国内における空港・港湾までの「運搬」時は、二種省令*5第7条に定めた拡散防止措置を執ることが必要です。(以下略、注は著者)
今回は、施行規則第36条の2「輸入国において当該輸入国が定める基準に従い拡散防止措置を執って使用等が行われるものとして遺伝子組換え生物等を輸出する場合」に従って輸出しました。これを証明するものとして、受領国ドイツの研究機関から日本の研究機関に対してレターをもらいました。日本の研究機関からは、情報提供書が発行されました。
国内輸送については、二種省令第7条に示すように、拡散しないような容器に入れ、外装には取扱注意を表示しました。この他、外国為替及び外国貿易法に基づき、安全保障輸出管理に関する「非該当証明書」とその説明資料を用意してもらいました。
*2遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律
*3https://www.mext.go.jp/a_menu/lifescience/bioethics/mext_02733.html#t8
*4遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律施行規則
*5研究開発等に係る遺伝子組換え生物等の第二種使用等に当たって執るべき拡散防止措置等を定める省令

6)輸送

遺伝子組み換え微生物(国連番号:UN3245、正式輸送品目名:Genetically modified micro-organisms/ Genetically modified organisms)は航空危険物に当たります。また、この輸送を扱うことのできる業者は限られています。
実際にはFedExに頼みましたが、梱包は国際航空貨物取扱士の資格を持つ者が行う必要があります。FedExに宛先を告げて輸送が可能であることを確認しました。用意した書類は、次のとおりです。
ⅰ.FedExの航空貨物運送状(手書き)*6:1様
ⅱ.Invoice:3枚
ⅲ.非該当証明書:3枚
ⅳ.受領組織からのレター:3枚
ⅴ.提供組織からの概要説明書:3枚
航空危険物規則書の包装基準959に指示されるように梱包しました(Fig. 1)。外装には指定されたマークを貼り、荷送人と荷受人の名前と住所を記載しました。また、国内運搬のため、「取扱い注意」の表示が必要でした。これを常温で送付しました。
*6通常航空危険物の輸送には、「航空貨物運送状」の他に「危険物申請書」が必要となるが、UN3245ではこの申請書を必要としない。それを示すためのチェック欄がある。

おわりに

GMMOの輸出には多くの関係法令があり、複雑です。輸送についても航空貨物取扱規則に従い、輸送業者に聞き、適切な梱包と輸送方法を選ばなければなりません。なお、外装にエックス線禁止のシールを張ることも重要であることを後になってから知りました。今後は注意したいと思っています。

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