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はじめに
全国の大学などが参加・利用できる「研究成果有体物のweb管理システム」について、開発者である鹿児島大学の深見克哉先生にお話しを伺いました。成果有体物とは、2002年7月に文部科学省から大学等に通知された「研究開発成果としての有体物の取扱いに関するガイドライン」によると、論文、講演や著作物等を除く、学術的・財産的価値などのある有体物を指します。
Q1:このシステムを開発された背景を教えてください。
科学の発展や新しい技術の創出には、国際的な協力が欠かせません。こうした協力は「開かれた研究環境」があってこそ成り立ちます。しかし近年、その環境が悪用され、研究成果の不正流用や技術の海外流出につながり、国の安全保障や経済の安全にリスクをもたらすことが国際的に強く認識されるようになってきました。研究者が安心して国際協力できるようにするには、「研究インテグリティ」と「研究セキュリティ」に取り組み、自由・独立性・開放性・互恵性・透明性を大切にした開かれた研究環境を整えることが必要ということが、政府の方針でもあります。
大切なのは、法律や規範、倫理観を守ること(研究セキュリティ)に加え、社会的な責任を果たす取組を実践すること(研究インテグリティ)です。今回は、成果有体物の授受において、「研究インテグリティ」と「研究セキュリティ」の確保に効果的で、研究者と大学の双方にメリットのあるシステムを構築しました。
Q2:このシステムの内容を教えてください。
現在は、北極圏ノルウェー領スバールバル諸島のスピッツベルゲン島にあるニーオルスン基地*1を拠点に、微生物を採集して日本へ持ち帰ることが最も多くなっています。日本の国立極地研究所も施設を設けており、ノルウェー政府の管轄のもと、20か国以上の研究者が集まり、情報を交換しながら個々またはグループで研究を進めています。
ここでは、極地の微生物を国際的な共有財産と捉え、円滑な移動が可能となる制度が整備されています。国立極地研究所が許可の手続きを行い、共同研究という形でかなり自由度の高い調査を行えます。
以前は年に数回訪問していましたが、現在は2年に一度夏季に現地に滞在してサンプルを採取しています。訪問の約半年前には、スバールバル総督府の管理システムに研究目的、調査地域・地点、活動内容、使用装置などをオンラインで登録します。この情報は他の研究者も閲覧可能で、研究活動や成果が広く共有される仕組みになっています。
申請は個人で行いますが、国立極地研究所の北極観測センターが管理を担っています。同センターは大学研究者の支援だけではなく、幅広い仕事をしています。例えば、日本の小学校と北極・南極を結ぶ中継イベントなども実施しており、子供たちが手を振って「寒いですか?」と元気に質問する楽しい場面もありました。
なお、南極にはこれまで2回行きました。興味深いことに、北極圏と南極圏の微生物には共通点が見られます。直近の氷河期には大陸が氷河で覆われ、海水面が低下していたため、人や動物の移動があり、植物の移動も人や動物の活動によって引き起こされた可能性があります。
Q3:研究者にとってどのようなメリットがあるのでしょうか?
一つには、随時依頼が可能ということです。昼夜いつでも申請でき、翌日には担当者が内容を確認して手続きを進めることができます。
二つ目は、データベースに記入することで、法令を研究者自身で確認できるということです。さらに、各担当部署は申請内容を確認でき、対応がスムーズに進みます。
3点目は、関連データがすべて残るので、過去の契約書や授受の履歴の確認が可能になることです。大学の担当者が変わっても過去の授受に関連する情報(契約書類)などを探し出すのに苦労しなくとも済みます。
4点目は、登録したマテリアルデータベースを活用できるということです。成果有体物の概要をweb上で公開することにより、企業や他の研究者に見てもらえ、外部資金の獲得や共同研究の拡大につなげることができます。
最後に、操作が簡単であるということです。また、一回の入力で必要な申請までができてしまいます。
Q4:大学など組織としてのメリットは何でしょうか?
まず、研究の過程で創作された貴重な成果有体物と授受の正確な記録が大学に残り、それを一元的に管理できるという点です。これにより、契約の標準化も可能となります。有体物の授受情報が分散してしまっている、あるいは契約締結に時間がかかるという、これまでの問題を解決できます。これまでの経験により、より交渉労力が少ないMTAひな型を参加大学で共用できます。
第二に、授受に関わる関係法令の種類や対応過程の見える化ができるということです。関連法令が遵守されているかを一覧で管理できます。
第三に、有体物を公開することにより、有効活用や社会実装へ導くことができます。最後に、知的財産管理上の有用なデータベースとなり得る点です。有体物の他機関への提供の際に、その有体物の所有権と知的財産権を容易に把握できます。
Q5:運用はすでに始まっているのでしょうか?
システムの稼働は2025年4月から始まっており、現在、他の6連携大学と運用しています。さらに多くの大学にもこのシステムに参加していただけることを望んでいます。このシステムのトップページはアカウントなしで閲覧可能です。
Q6:データ保存とメンテナンスについて教えてください。
現在7大学で共同運用していますが、データはそれぞれ別の領域に格納しており、各大学の情報が混合することはありません。バックアップは他の2か所で行っています。また、最新のセキュリティで対応しており、適宜アップデートしています。費用としては、システムの管理料程度(約18万円/年)のみをいただいています。また、いくつかの大学と連携することにより、他大学の担当者に不得意な分野の相談や互いの意見交換が可能になり、より均一化した教員へのサービスが可能となります。
おわりに
大学の研究者が有体物を受領する場合、ABS対応と共に、国内法令のどれに対応すべきか悩むことが多いのではないでしょうか。また、提供する場合には、外為法を始め、他の法令担当部署それぞれに対応しなければならず、面倒と感じるのではないでしょうか。加えて、成果有体物の授受にはMTAが必要であり、同様の内容を契約担当者にも説明しなければなりません。このような煩雑な手続きを解決してくれるのが、このシステムです。
また、各部署の担当者は、他部署でどのような対応が進んでいるのかを一覧で把握することができます。さらに、成果有体物がショーケース化されることも研究者と大学の両者にとって大きなメリットです。
インタビューにご対応いただきました、国立大学法人鹿児島大学 南九州・南西諸島域イノベーションセンター 知的財産・リスクマネジメントユニット 特任教授 深見克哉博士に厚く御礼申しあげます。
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