はじめに

フィンランドの大学から土壌付き苗を日本へ輸入したい、という相談を国内研究者から受けました。どのような植物でも土壌が付着していれば植物防疫法上の輸入禁止品です。今回は日本の大学の研究室へ苗を輸送した事例を紹介します。

1.ABSの基本プロセス

海外の遺伝資源を利用する場合、一般的には次の7段階のプロセスを経ます。ただし、提供国の法制度、提供国研究機関との関係性、遺伝資源の種類によっては、一部の手続きが不要であったり、手続順序が変わったりする場合があります。
(1)信頼できる提供国相手の決定
(2)提供国のABS情報の収集
(3)関連する国際条約、利用国(日本)の法令の確認
(4)「相互に合意する条件(MAT)」を盛り込んだ契約の締結
(5)提供国政府から「情報に基づく事前の同意(PIC)」の取得
(6)「材料移転契約(MTA)」の締結
(7)輸送手段の確保

2.具体的なABS手続き

1) 提供国の相手

相手はフィンランドの大学の研究者とポスドク研究員でした。国内研究者とフィンランド側の研究者は、それぞれの国の助成金で研究を進めており、共同研究という形態をとっていませんでした。
国内研究者から依頼があり、フィンランドの降雪前に輸入したいとのことでした。

2) 提供国のABS情報

フィンランドはEU加盟国であり、ABSクリアリングハウスには、EU規制などが載っていました*1。ABS手続きは不要と考えられましたが、念のため国内連絡先(NFP)へ問合わせをしてもらうことにしました。
まず、フィンランドの研究者へABSについて説明したところ、学内で検討が始まりました。しかし、結論がなかなか出なかったため、直接NFPに問い合わせてもらいました。その結果、次のような回答がありました。
“There is no need for PIC and MAT for Finnish genetic resources with respect to the Nagoya protocol. Finland has no access regulation for genetic resources. PIC and MAT are required only when traditional knowledge of the Sami people is used.” つまり、先住民族サーミ人の伝統的知識に関してのみABS対応が必要であることがわかりました。
*1 EU規制については、ABS Report No. 1を参照。

3) MATとPIC

今回の輸入に関して、MATとPICは不要であることが確認されました。しかし、双方が共同研究の形態を望んだため、共同研究契約を締結しました。

4) MTA

MTAは通常、提供国側の要望を強く盛り込んだものとなりますが、今回は米国大学技術マネージャー協会(AUTM)のWebページに掲載されているNIHのSimple Letter MTAテンプレートに準じた契約としました。

5) 植物防疫法と輸送

植物に土壌が付着していれば植物防疫法の輸入禁止品に該当します。そこで、「輸入禁止品輸入許可申請書」を管轄の植物防疫所に提出しました。植物防疫所によって実地調査が行われ、「輸入禁止品輸入許可指令書」などが交付されました。
フィンランド側では植物を健全な状態で日本へ送るため、日数が短い輸送方法を検討しており、国際スピード郵便(EMS)よりも国際宅配便の方が輸送日数を短縮できるという情報を得ていました。また、冷蔵による輸送も検討されていました。
梱包については、フィンランド側から次の方法が図示され、提案されました。
ⅰ)圃場から苗木を採取する。
ⅱ)実験室で、土壌部分をビニール袋で包む。ビニール袋は、袋内に空気が流れ込むように緩く結ぶが、土壌が袋の外にこぼれないよう注意する。
ⅲ)用意した苗すべてを発泡スチロール箱に入れ、隙間を空気入りのビニール袋で埋めて固定する。
ⅳ)発泡スチロール箱を段ボール箱に入れる。
日本側からは、植物検疫に対応できるのはEMSであるということを伝え、提案された梱包方法を申請書に記載しました。さらに、フィンランド側から試験用の他の種子も同梱したいとの連絡がありましたが、輸入禁止品と他の物品は同梱できないため、断ることにしました。
その後、国際宅配便で発送したとの連絡が入りました。植物検疫の必要な貨物は、通常そのまま返送される可能性があります。配送業者に事情を説明し、例外的に成田の植物防疫所へ搬送してもらうことができました。
しかし、検査の結果、輸入許可条件に適合していない状態と判断され、輸入不可をなりました。個々の苗を覆うビニール袋が完全に閉じられておらず、外装段ボール内へ土壌が落下していたこと、さらに段ボール箱に持ち手用の穴があり、外部へ土壌が散逸する可能性があったことなどが理由でした。すべての苗をいれるべき、発泡スチロール箱は省略されていました。
植物防疫所へは「事情説明書」を提出し、
ⅰ)申請時の梱包方法と実際の梱包状態が異なった経緯
ⅱ)次回輸入時の改善策
について説明しました。
その後、再申請を行いました。前回と同様に梱包方法を図示し、梱包時にはオンラインで状態を確認し、EMSで送付することを確約してもらいました。
この時期、フィンランドでは気温が氷点下になるため、苗を掘り取って温室で保管してくれていました。後日、オンラインで、苗を袋に入れるところから外装を閉じるまでの梱包状態を確認し、輸送してもらいました。
最終的に、苗は日本へ到着し、無事に検疫を通過しました。植物体の状態も研究利用に支障のないものでした。到着後は包装容器を消毒し、「輸入禁止品到着報告書」を提出しました。その後、「輸入禁止品輸入許可指令書」に記載された管理条件下で試験が開始されました。

おわりに

輸入禁止品の梱包や輸送には、植物防疫法に基づく厳密な管理が求められます。今回、フィンランド側では、善意から別サンプルを同梱しようとしたり、輸送日数を短縮できる方法を選択したり、植物が呼吸できるようビニール袋を緩く閉じたりしていました。しかし、それらは植物防疫法上、大きな問題となり得ます。そのため、日本側から規制内容を丁寧に説明する必要がありました。
また、共同研究契約やMTA締結の時期が夏季休暇と重なったことから、事務手続きに時間を要しました。フィンランド側研究者が長期休暇を取得していた期間もありましたが、研究チーム内で連絡体制が維持されたことで、手続きは継続することができました。

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