はじめに
日本の大学の研究者から、オーストラリアの湖沼の水と堆積物を輸入したいという相談がありました。結果的には、研究内容がこれらサンプルの物理的解析であったため、ABSに関する手続きは不要との回答を現地当局から得ました。今回はオーストラリアのABS制度を確認したうえで、日本の植物防疫法に基づく手続きを行い、サンプルを輸入した事例を紹介します。
1.基本的ABSプロセス
海外の遺伝資源を利用する場合、一般的には次の7段階のプロセスを経ます。ただし、提供国の法制度、提供国研究機関との関係性、遺伝資源の種類によっては、一部の手続きが不要であったり、手続順序が変わったりする場合があります。
(1)信頼できる提供国相手の決定
(2)提供国のABS情報の収集
(3)他の国際条約、利用国(日本)の法令の遵守
(4)「相互に合意する条件(MAT)」を定めた契約を締結
(5)提供国政府から「情報に基づく事前の同意(PIC)」を取得
(6)「材料移転契約(MTA)」を締結
(7)試料輸送手段の確保
2.具体的な対応
1) 提供国の相手
本研究は、西オーストラリア州の大学研究者との共同研究でした。研究内容は、同州に位置する湖沼の水と堆積物を物理的に解析するものでした。
2) 提供国のABS情報
オーストラリアは1993年に生物多様性条約の締約国となりました。名古屋議定書には2012年に署名していますが、現在まで批准はしていません。一方、現行の国内措置は名古屋議定書と整合しています。また、ABSクリアリングハウス(ABS Clearing-House)には、オーストラリアの国内連絡先(National Focal Point)として、気候変動・エネルギー・環境・水資源省(Department of Climate Change, Energy, the Environment and Water)の担当者が掲載されています。
連邦レベルでは、1999年環境保護・生物多様性保全法(Environment Protection and Biodiversity Conservation Act 1999)およびその規則に基づく制度が設けられています。一方、州・準州などにもそれぞれ法令や手続きがあり、遺伝資源の採取地や土地・水域の区分などによって適用される制度が異なります。
オーストラリア政府のウェブサイトでは、9つの州・準州など*1について、土地、水域、保護区、公園などの区分ごとに、関係する法令や連絡先が整理されています。*2
今回は、西オーストラリア州の『土地』の区分に該当する湖沼から採取するサンプルであったため、関係する制度を確認し、現地の研究者から担当窓口に問い合わせをしてもらいました。その結果、研究内容がサンプルの物理的解析であることから、本件についてABSに関する手続きは不要との回答を得ました。
*1 ニューサウスウェールズ州、ビクトリア州、クイーンズランド州、南オーストラリア州、西オーストラリア州、タスマニア州、ノーザンテリトリー、オーストラリア首都特別地域、外部領土
*2 Department of Climate Change, Energy, the Environment and Water, “Australia’s biological resources”
https://www.dcceew.gov.au/science-research/australias-biological-resources
3) MAT、PIC、MTA
本件ではMATおよびPICに関する手続きは不要でした。また、オーストラリア側の大学の意向により、MTAについても締結しないこととなりました。
4) 日本の法令への対応
日本への輸入にあたって植物防疫所に確認したところ、湖沼水については土壌が混入する可能性があることから、植物防疫法上の輸入禁止品として取り扱う必要があるとの判断でした。また、堆積物についても輸入禁止品として取り扱われました。
そこで、輸入禁止品の輸入許可制度に基づき手続きを行いました。具体的には、輸入禁止品輸入許可申請書を提出し、植物防疫所による保管施設の調査を経て、輸入禁止品輸入許可指令書および輸入許可証票を受領しました。
輸入後は、輸入禁止品到着報告書を提出し、許可条件に従ってサンプルを管理することとなりました。
5) 輸送
日本の研究者が航空便でサンプルを携行して輸入しました。研究者は予備のトランクを持参し、帰国時にそのトランクにサンプルを収納してトランクの外装に輸入許可証票を貼付しました。日本の空港に到着後、植物防疫のカウンターで輸入検査を受け、輸入許可証明書が交付されました。
おわりに
オーストラリアは名古屋議定書の締約国ではありませんが、現行の国内措置は名古屋議定書と整合しています。オーストラリア政府のウェブサイトでは、サンプルの採取地や土地・水域などの区分ごとに、関係する法令や連絡先が整理されており、実際の手続きを確認するうえで有用です。なお、遺伝資源に関連する伝統的知識が関係する場合にも、その取扱いが州・準州などによって異なるため、関係する管轄地域の制度や手続きを個別に確認する必要があります。
今回、当初は湖沼から採取した水については植物防疫法上の輸入禁止品には該当しないのではないかと考えていました。しかし、植物防疫所に確認したところ、土壌が混入する可能性があることから、輸入禁止品として取り扱う必要があるとの判断でした。この事例を通じて、海外の試料を輸入する際には、利用者側だけで判断するのではなく、関係当局に事前に確認し、その判断に基づいて手続きを進めることの重要性を改めて認識しました。
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